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小学校教科担任制導入の論点

 2020年度から小学校で英語が正式な教科となることやプログラミング教育が必修化されることを受け、特定の教科を専門の教員が複数の学級で教える教科担任制を拡充することが中教審で検討されている。
 現在の免許制度は相当免許状主義をとり、幼稚園・小学校は学校の種類ごとの免許状、中学・高校は学校の種類及び教科ごとの免許状が必要であることを原則としている。一方、免許状所有者を確保することが困難な場合への対応、専門的な知識・技能を持つ教員を活用する観点から特例措置が設けられており、例えば中学・高校の教科で、免許状を持つ教員を採用できない場合、校長等の申請により、都道府県教育委員会は1年以内の期間に限り、免許状を持たない教員がその教科を担任することを認めることができる(免許外教科担任)。また、小学校専科指導充実の観点から、より専門的な知識・技能を持つ教員の活用を図るために、中学・高校の免許状を持つ者は、免許教科に相当する教科を小学校で教えることができる(中学・高校免許状による小学校専科教科担任)。

 小学校における教科担任制の導入については今年4月、柴山昌彦文部科学大臣(当時)が中教審に諮問した「新しい時代の初等中等教育の在り方について」の中で、「義務教育9年間を見通した児童生徒の発達の段階に応じた学級担任制と教科担任制の在り方や、習熟度別指導の在り方など今後の指導体制の在り方」「新学習指導要領に示された児童生徒の発達の段階に応じた学習内容や指導の在り方を踏まえ、義務教育9年間を学級担任制を重視する段階と教科担任制を重視する段階に捉え直すことのできる教職員配置や教員免許制度の在り方」の検討を求め、指導体制と教員配置の両輪で改善を進める。さらに文科省は、概算要求で学校における働き方改革に小学校専科指導(英語)を位置付け、専科指導を加配教員に担当させることで教員の持ちコマ数の軽減を図ろうとしている。

 小学校における専科指導の導入には、専門的な指導の充実とともに、学級担任制である小学校において、一人の児童に対して複数の教員が関わることを通じて学習や生活の様子を多角的に見ることができるという利点がある。上述の文科大臣の諮問が「教員免許制度の在り方」まで検討を求めていることから、小学校で教科担任制の拡充を図るために、例えば中学校免許状所持者が小学校免許状を取得しやすくなるような特例を検討することが考えられる。
 その際、全国的に拡充した教職大学院を活用したらどうだろうか。
 現職教員の場合、隣接免許状の取得に関わる軽減措置(教育職員免許法別表第8)で、例えば中学校一種免許状所持者が小学校二種免許状を取得する場合、本来24単位必要なところ、3年以上の勤務があれば12単位まで軽減される。この12単位の一部について、さらに教職大学院の単位を流用できるようにすれば、「1年通学、1年現場」の教職大学院を中心に隣接免許状が取得しやすくなるだろう。(S)

2019年10月07日

社会人の登用がなぜ進まないのか

「免許状を持たない社会人の登用について」
 8/31に開催された中央教育審議会・教員養成部会の議題である。学校教育現場に多様な経験や技能を持つ人材を取り入れ、活用することの是非を今さら問う必要はないだろう。ここでの議論は、どのような方法で社会的経験や資格を持つ教職志望者の資質・能力を見極め、学校に採用するのかが論点となるはずだ。

 特別免許状は、地域や学校の実情に応じて、学校教育の多様化や活性化を図るため、優れた知識や経験を持つ人材を教員として迎え入れることを目的に昭和63年に創設された。都道府県教育委員会が行う教育職員検定に合格した者に授与し、その都道府県においてのみ有効である(有効期限は10年間)。授与件数は平成元年から平成26年までの累計が700件で、再三の制度改正(授与対象の拡大、授与条件の緩和)にもかかわらずあまり活用が進まなかった。そのため文部科学省は、平成26年に「特別免許状の授与に係る教育職員検定の指針」を策定し、指針を参考に授与基準を弾力化し、特別免許状の積極的な授与を行うよう通知した。その後の授与件数は、平成27年215件、平成28年186件、平成29年169件と改善している。なお、学校種の内訳は、平成元年から平成27年までの累計(915件)で、小学校3件、中学校116件、高等学校661件、特別支援学校135件である。
 特別免許状の授与は、採用(終身雇用)と直結するため活用が進まないと考えられていたが、この日の資料や委員の発言から、その背景が見えてくる。

 まず、ほとんどの教育委員会が、現在の特別免許状制度について「基準は適当」と考えていることである。このことから、特別免許状の活用が進まないのは、制度側の問題ではなく活用する側の意識によることが推測できる。ある委員は、自分たちが4年かけて取得した免許状をいとも簡単に与えるのは面白くない、という趣旨の発言をしていた。
 さらに学校教育現場から選ばれた委員に多く聞かれたのは、社会で活躍しているからといって、必ずしも教師としての適性が高いわけではないという主張だ。そのような調査を行った例はないと思われるため感想の域を出ない発言だが、こうした主張をする人は、外部の人材を取り込むのにどんな観点を重視するのだろう。
 ちなみに、話題提供のあった、教育委員会と教職志望者のマッチングを行うあるNPOでは、教員志望者に模擬授業を徹底的にやらせるということだが、社会人経験者に何を期待するのかを履き違えると、「その場しのぎのための社会人活用」に陥るかもしれない。実際、同NPOによって教員になった者は、ほとんどが臨時免許状を授与されて教壇に立っている。臨時免許状は、普通免許状を持つ者を採用できない場合に授与する免許状である。

 今回の議題は、学校現場の人手不足に端を発していると思われるが、学校現場(を代表する人)の考えは、人手不足は困るし教員採用試験の倍率低下による質の低下も困るが、一方で優れた知識や経験を持つ社会人を積極的に採用していくことは当面考えていない、ということなのだろう。
 社会人経験者を学校現場に迎え入れることの効果は、必ずしもわかりやすいものとは言えない(民間人校長の検証さえまだ行われていない)。しかしながらあらゆる職種において、多様な人材を活用することが効果的とされ、実際に進められている。
 教育委員会をはじめ、学校教育現場の意識改革こそ、今取り組むべき課題ではないだろうか。(S)

2019年09月03日

教員の資質向上策推進のための体制整備進む

 8月末に文部科学省が公表した平成30年度機構・定員要求の主要事項に「総合的な教育改革を推進するための機能強化イメージ(案)」が示された(以下のURL3ページ目)。
http://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2017/08/30/1394952_3.pdf

 現在、文科省の教員政策は、免許制度に基づく教職課程認定や教員の採用・研修は初等中等教育局の教職員課が所掌し、大学における教員養成政策全般は高等教育局の大学振興課が主に担う。中央教育審議会等において、このことを問題視する委員の発言(多くは大学関係者)も多く、初中局と高等局の二元構造が教員の資質向上策推進の足かせになっていると考えられる。

 最近では、高等局主導で国立大学のミッションの再定義が行われ、結果、教職大学院が全国に拡充された。しかし、それぞれの都道府県教育委員会において教職大学院を研修のどこに位置付けるかはバラバラだし、ストレートマスターの採用試験一部免除、初任者研修一部免除等のインセンティブ付与も統一的な見解があるわけではない。
 また大学に対し、養成した教員の成長をフォローしてデータを蓄積するよう要望が出されるが、多くの教育委員会は特定の機関に対して教員情報を提供するようなことはしない。
 大学関係者にとってこうした政策の進め方はちぐはぐに映るのだろう。

 イメージ案は、教職員課と大学振興課の教員養成部分(教員養成企画室)を統合して「教育人材育成課」に再編する。これにより教員の養成・採用・研修が一体的となり、現在文科省が進める教員の資質向上策は大きく進展すると考えられる。
 8/29にまとめられた「国立教員養成大学・学部、大学院、附属学校の改革に関する有識者会議」の報告書の提案も一気に進むだろう。国立教員養成大学・学部の規模縮小、教職大学院への重点化、さらに附属学校についても県教委等との関係性のもとに改善が図られる。

 一方で高等局から離れることのデメリットはないか。学部・学科の運営は大学教育全体の改革動向、予算措置等と切り離すことはできない。さらに大学は学問の府であり、いかに実践性が求められる教員養成とはいえ行政サイドとの適度な距離感は必要である。
 また、教員養成政策が学校現場の課題に対応できていないとの指摘がある中、初中局から離れることで状況が悪化しないか。先の報告書は、「総合的な学習の時間」の質が学校現場で問題となって久しいが、多くの教職課程で必修に位置付けられていないことを指摘している。学校現場の課題をいち早く教員養成政策に反映させる手立てが必要である。

 このイメージ案について、機構・定員要求の冒頭、「将来の我が国の社会を創造する「人づくり」の実現を期し、「教育アクセス」の確保・充実をはじめとする総合的な教育政策の推進のための体制整備」と短く説明されている。
 教育アクセスは、教育人材に関わる人や組織間の情報の共有、連携や協働、人の交流を示すと思われるが、そのことで教育人材を取り巻く環境が「閉じた」ものにならないよう「開かれたアクセス」が肝要となろう。(S)

2017年09月15日

教職大学院中心の国立教員養成大学・学部・附属学校改革案まとまる

 文部科学省に置かれた「国立教員養成大学・学部、大学院、附属学校の改革に関する有識者会議」が1年間の議論を重ね、8/29に報告書を取りまとめた。本有識者会議は、教員需要の減少期到来を見据え、国立教員養成大学・学部に関わる機能を量的に縮小しつつも、限られた資源の中で教員養成機能を現状より高め、教師教育全体の質の向上に資するための改革方策等を検討するために設置された。

 我が国の教員養成は、平成17年の「教育分野における抑制方針の撤廃」以降、私立大学等の一般大学・学部が存在感を示し、公立学校教員採用試験で教員採用数に占める国立教員養成大学・学部の割合は、小学校33.4%、中学校24.2%、高校13.9%、特別支援学校26.1%(平成28年度採用選考)にとどまる。また、国立教員養成大学・学部の教員への就職率は、近年では平成23年の63%をピークに減少傾向にある(平成28年3月卒業生59%)。

 教員養成において私立大学等の存在感が増す中、公立小中学校の教員需要は、平成34年度には平成28年度に比べて6%減少することが予測され、平成35年度以降も減少傾向にあるという。こうした背景から国立教員養成大学・学部の存在意義が問われている。

 有識者会議は、国立教員養成大学・学部・大学院・附属学校の現状について、学長や学部長、附属学校の校長や学生、教育委員会に対してアンケート調査を実施。学部・大学院・附属学校それぞれの課題について、具体例と数値を挙げて改善の必要性を述べている。
 例えば、教育・研究成果の地域社会への還元、連携や人事交流の捉え方等について、大学・附属学校側と教育委員会側に認識のズレがあり、大学・附属学校において、社会が要請する人材育成や地域貢献がなされていないこと等が指摘されている。

 一方、国立教員養成大学・学部で教職大学院の開設が進み、来年度には鳥取県を除く全都道府県への設置が完了。報告書において、教職大学院への重点化、機能強化に関し5ページにわたり記されているように、国立教員養成大学・学部・附属学校の改革は、教職大学院の強みや特色を再確認した上で課題を改善し、そこに機能を集約することで実現できるとされている。

 教職大学院が解決すべき課題に、大学院レベルで教科の指導力を向上させたいという受講者ニーズに対し、教職大学院において教科領域をどう取り入れるか、その方向性がいまだ見いだせていないことが指摘されている。理論と実践の往還を取り入れた教科領域の導入は、教職大学院の機能強化において必要不可欠であり早急に解決すべき課題である。
 報告書は、学部と教職大学院の接続を重視した新たな教員養成の在り方や、附属学校教員が教職大学院を受講して地域に戻っていく、場合によっては教職大学院で教えるなど、教職大学院と附属学校を活用して地域の教育力を高めることも提言している。

 教職大学院の機能強化を中核に据えた国立教員養成大学・学部・附属学校の改革には、教育委員会はじめ学校現場の理解、協力が不可欠となる。教育委員会が現職教員の派遣を渋ったり、教職大学院や附属学校を活用した新たな人事制度を検討することに取り組まなければ、報告書は絵に描いた餅に終わる。
 大学の努力はもちろんのこと、全国に広がった教職大学院の活用を促すような手立てが、教職大学院の機能強化を推し進めるために必要だろう。(S)

2017年08月30日

教職課程コアカリキュラムの目的と社会的意義

 昨年11月の教育職員免許法の改正、今後予定されている同施行規則の改正を受け、平成31年度入学生から改正免許法等に基づく教員養成が行われることになる。その中核は、教職課程におけるコアカリキュラムの導入である。教職課程コアカリキュラムは、免許法等で定められた教職科目のうち、現在の「教職に関する科目」の各科目について、学生が修得すべき資質能力を共通的に示し、そこに至るために必要な学習内容や到達基準を構造的に示すものである。

 高等教育における人材育成では、課題探求力の育成を基本に据えた社会を生き抜く力の育成が求められている。その上で、教員のような専門職養成を行う学部・学科においては、その時々でそれぞれの専門職に求められる資質能力を見極め、資質能力を身に付けるために必要な科目の開設が求められ、教職課程のカリキュラムの工夫・改善が重要な課題となっている。教職課程コアカリキュラムは、各大学が教職課程を編成する際に参考とする指針として策定するものである。

 コアカリキュラム作成の目的は、全国すべての大学の教職課程で共通的に修得すべき資質能力を示すことである。大学は、教員養成に求められる共通の内容、水準を確保しつつ大学独自の創意工夫を加えるなど、特色ある教員養成を一段と進めることが可能になる。

 大学には、開設科目においてどの資質能力を身に付けるかを明示するなど、コアカリキュラムで体系的に身に付ける教員として必要な資質能力を教職課程全体で担保するためのカリキュラムマネジメントが求められる。教員については、当該科目に求められる内容、水準が明確になり、授業はもとより授業の方法について、アクティブ・ラーニングに積極的に取り組むなど授業をより充実しやすくなるなどのメリットもある。

 コアカリキュラムは、教職課程の質を維持、向上することを通して、より高度な専門職養成を行うための具体的な方策である。高度専門職である教員に最小限必要とされる資質能力を身に付けるため、各大学には、コアカリキュラムを踏まえた教職課程を編成し、そこでの学修と適切な評価を通じて、教員を目指す学生の質の維持、向上に努めることが求められる。

 このような取組は、育成すべき資質能力について客観的な基準を明らかにすることを通して、広く社会に教員養成の現状についての理解を進め、その在り方や方向性について、より建設的な議論を可能にするものといえる。(S)

2017年08月08日

「教職センター」の役割について

 平成24年の中教審答申「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について」は、「教職センター」について、総合大学の有する資源・機能の教員養成に対する活用や、教育学部の有する資源・機能の全学的活用等の観点から有効であるとし、多くの大学で同様の取組を推進することが必要としている。
 この場合、「教職センター」の役割は、主に開放制教員養成の推進と質の向上に置かれていると考えられる。

 現在、私立大学を中心に、全学的な組織として「教職センター」を設置する大学が増え、採用実績上位校のホームページを調べると、東西問わずほとんどの大学が同様の組織を置いている。
 その中で、センターの構成を見ていくと、大きく2つのパターンに分けられるように思われる。

 1つは、主に教育実習や教職実践演習、教科指導等の科目を担当する教員を構成員として配置し、教育学部を含む全学の教職課程をカバーするケースで、もう1つは、主に教育学部以外の学部・学科の教職科目を担当するケースである。
 いずれのケースも平成24年の中教審答申の趣旨を踏まえたものと思われるが、教員養成の要となる教育学部の在り方に違いがあるように思う。

 前者の場合、従来指摘されている「教科に関する科目」の担当教員が学校教育への関わりが少ないという指摘とともに、「教職に関する科目」の担当教員についても、実習や実践演習への関わりが減ることで、教育学部全体として学校教育との関わりが少なくなっているように思う。
 後者の場合、教育学部自体は単体でほぼ完結した養成を行っており、センターを通して、他学部の教職科目の一部をもサポートするような仕組みである。教育学部内ではほとんどの教員が実習等に関わる。

 平成27年の中教審答申「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について」は、教員養成に関する改革の具体的な方向性として、教員養成学部が中心となり、教員養成を全学的に推進していくための体制整備を挙げている。
 ここに、教員養成の中心は教育学部であり「教職センター」ではないことが読み取れよう。
 今後、さらに多くの大学で「教職センター」の設置が進むと思われるが、そのことで教育学部の養成の質が低下するようなことがあってはならないのは当然であろう。(S)

2017年06月16日

専修免許状を取得しやすくする提案に関連して

 平成27年の中教審答申「今後の学校教育における教員の資質能力の向上について」では、免許更新講習の受講や大学が提供する履修証明プログラム等の学びを積み上げて専修免許状を取得できるような仕組みを構築することが提言されている。
 一種免許状を持つ現職教員が3年間良好な成績で勤務した後、関連科目を大学で15単位分修得すれば専修免許状が取得できる仕組みを利用するものだ(免許法第6条別表第3)。

 いくつかの教職大学院では、教育委員会との連携のもと、管理職候補者を対象に「学校管理職養成コース」「学校改革マネジメントコース」を開設するなど、これまでの研修実績が目に見える形で表れていることから、その成果を、多様な研修形態で還元しようという狙いもあるだろう(一方で「切り売り」だと大学にとってあまりメリットがないことも指摘されている)。

 他方、大学院等で専修免許状を取得する場合、認定課程において「教科又は教職に関する科目」を24単位分修得することとされている。
 このことに関連して、以前、文部科学省に置かれた「教員の資質能力向上に係る当面の改善方策の実施に向けた協力者会議」の「教職課程の質の保証等に関するワーキンググループ(第1回)」で、端的に現在の課題を示す資料が配布されたことを思い出し、文科省HPを当たってみた。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/093/093_1/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2012/10/19/1326972_6.pdf

 高校数学の専修免許状を取得する課程とはいえ、高校での学習とはかけ離れた科目が並ぶ。
 また、この修士課程学位プログラムにおいて、教職課程(教職科目)がそこにどう位置づいているか(この修士課程でどのような教員を養成するのか)が見えてこないように思う。
 都道府県教育委員会等の採用権者が、採用選考時において、専修免許状そのものに対しインセンティブを付与しづらいのも、こうした状況に即したものといえるかもしれない。

 専修免許状の教職課程を学校教育に関連づけていくことはもちろんだが、専修免許状取得の過程で何を学んだかを示す仕組みも同時に必要であり、そのことを評価する柔軟な対応も検討する必要があろう(現行制度では、特定の分野に関する単位を12単位以上修得した場合に分野の記入が可能)。(S)

2017年06月10日

新たなスキームへの期待

 平成27年の中教審答申「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について」を受け、昨年、教育公務員特例法等の一部を改正する法律が成立した。これにより現職教員の研修を充実して教員を高度化する枠組みが整えられた。
 文部科学省が示す「新たなスキーム」によって、これまで教育委員会独自に行ってきた研修は、地域の大学の合意のもとに行うことが事実上義務づけられ、教員は職種や経験年数に応じて高度化に向け育成されることになる。

 ある地方大学は、教育委員会との連携が実を結び、今年から教頭採用試験の受験予定者を対象とする「学校管理職養成講習」を提供するという。「育成指標」にもとづく研修であることから、開設科目を受講し、講習が目指す資質能力を身につけたという証明をどうやって行うかという課題もあるが、管理職登用資格を得る前に、管理職に必要な資質能力を身につけさせる研修を大学と教育委員会が連携してスタートさせたことの意義を重視したい。

 4月には大学と教育委員会、学校現場をつないで「ハブ」の役割を果たす教職員支援機構がスタートした。先の地方大学の取組は、機構の「こけら落とし」といえる協議会で発表されたものだ。
 発表の後、質疑に応じた担当者は「皆さんもこれから、相当苦労されると思います」というコメントを残している。法律が変わり、制度の枠組みが整ったからといって大学と教育委員会が突然両輪で動き出すわけではない。
 形だけの協議会を置き、代表者を集めて年に数回集まるだけでは、これまでの水と油のように分離したままで、混ざり合うこともないだろう。

 この高度化において大学に求められるのは、協議会での活動や講座の開設において、これまでの研究知を実践に照らして意味づけすることだ。
 そして教育委員会には、子供たちの成長を第一に考えて、これまでの慣例を打ち破るような取組を期待したい。
 さらに機構には、与えられた助言機能をフル活用して大学と教育委員会の苦労を共に分かち合いながら、自らの存在意義を意味づけしてもらいたい。(S)

2017年04月26日

『シナプス』について

 『シナプス』は神経細胞どうしが接合する部位をあらわす名称です。イオンのやり取りを通じて神経細胞間の情報伝達を行い、細胞どうしを「つなぐ」役割を担います。教員養成を行う大学と教育実践を行う学校現場、そして教員の資質向上を一義的に担う教育委員会や関係諸機関を、様々な情報を通じて「つなぐ」ことをめざし、雑誌に『シナプス』というタイトルをつけました。

 『シナプス』の創刊を企画したのは、中央教育審議会に「教員の資質能力向上特別部会」が設置され、国レベルで初めて教員養成修士レベル化の検討が行われているときでした。およそ2年間の議論を経て、平成24年8月にまとめられた答申「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について」は、教員養成の修士レベル化を「改革の方向性」と位置づけて将来実現すべき課題として示すとともに、「当面の改善方策」として教員養成を修士レベル化するまでに必要な具体的条件整備を提言しました。現在の教員制度改革は、この答申の実現に向けて着実に歩みを進めていくものです。

 ところで大学の教員養成に対し、教員免許制度という資格制度以外で、国が改善を求めるよう提言をし、実行を促したのは平成18年の中教審答申「今後の教員養成・免許制度の在り方について」からと思われます。これ以降、現在まで教員養成・免許制度は、2つの答申(平成24年「教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について」、平成27年「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上に向けて」)と1つの協力者会議報告(「大学院段階の教員養成の改革と充実等について」)を受けて大転換期を迎えています。

 現在進められている制度改革の特徴に、教員免許制度や教員育成制度そのものを改善すると同時に、大学に対して、教育内容の中身や教育体制の充実といった大学自体の質の向上を求め、その両輪で教員の資質向上策に取り組もうとしている点を指摘することができます。以前は大学の自主性・自律性のもと、社会や学校現場に必要とされる養成や研修へ主体的に参加し、工夫・改善することが期待されてきましたが、もはやそれでは改革のスピードに追いつかないという判断がなされたものと思われます。

 教育委員会に対しては、平成27年の中教審答申を受けて教育公務員特例法等が一部改正され、「教員育成指標」や「教員研修計画」の作成、さらに地域の大学と連携するための「協議会」の設置が義務づけられました。「教員研修計画」は毎年度作成することとされ、来年3月までに最初の計画を文部科学省に報告する必要があります。やはり、これまでと比べて国が、各教育委員会に対してスピード感をもって教員の資質向上に取り組むよう求めていることが感じ取れます。

 特に「協議会」は、教育委員会と大学、学校関係者等が膝を突き合わせ、教員の資質向上について互いに情報を共有し、課題を述べ合い、新たな仕組みを構築して評価し、見直すための枠組みとして置くもので、学び続ける教員を協働して育成するため、大学と教育委員会、学校現場を具体的に「つなぐ」基盤をどのように構築し運用するか、今まさに全国で検討がなされていることと思います。

 このようにかつてない方法で教員の資質向上策が進められる中、大学と教育委員会、学校現場や関係諸機関を見据えて双方向的な情報提供を行い、教員の資質向上に関わる方々を「つなぐ」ことは今後ますます重要になると考えます。

 『シナプス』は、今後も関係の方々と密接に連絡を取りながら、読者の皆様に必要な情報を、そのタイトルにふさわしい内容と方法で常時発信してまいります。(S)

2017年04月21日