社会人の登用がなぜ進まないのか

「免許状を持たない社会人の登用について」
 8/31に開催された中央教育審議会・教員養成部会の議題である。学校教育現場に多様な経験や技能を持つ人材を取り入れ、活用することの是非を今さら問う必要はないだろう。ここでの議論は、どのような方法で社会的経験や資格を持つ教職志望者の資質・能力を見極め、学校に採用するのかが論点となるはずだ。

 特別免許状は、地域や学校の実情に応じて、学校教育の多様化や活性化を図るため、優れた知識や経験を持つ人材を教員として迎え入れることを目的に昭和63年に創設された。都道府県教育委員会が行う教育職員検定に合格した者に授与し、その都道府県においてのみ有効である(有効期限は10年間)。授与件数は平成元年から平成26年までの累計が700件で、再三の制度改正(授与対象の拡大、授与条件の緩和)にもかかわらずあまり活用が進まなかった。そのため文部科学省は、平成26年に「特別免許状の授与に係る教育職員検定の指針」を策定し、指針を参考に授与基準を弾力化し、特別免許状の積極的な授与を行うよう通知した。その後の授与件数は、平成27年215件、平成28年186件、平成29年169件と改善している。なお、学校種の内訳は、平成元年から平成27年までの累計(915件)で、小学校3件、中学校116件、高等学校661件、特別支援学校135件である。
 特別免許状の授与は、採用(終身雇用)と直結するため活用が進まないと考えられていたが、この日の資料や委員の発言から、その背景が見えてくる。

 まず、ほとんどの教育委員会が、現在の特別免許状制度について「基準は適当」と考えていることである。このことから、特別免許状の活用が進まないのは、制度側の問題ではなく活用する側の意識によることが推測できる。ある委員は、自分たちが4年かけて取得した免許状をいとも簡単に与えるのは面白くない、という趣旨の発言をしていた。
 さらに学校教育現場から選ばれた委員に多く聞かれたのは、社会で活躍しているからといって、必ずしも教師としての適性が高いわけではないという主張だ。そのような調査を行った例はないと思われるため感想の域を出ない発言だが、こうした主張をする人は、外部の人材を取り込むのにどんな観点を重視するのだろう。
 ちなみに、話題提供のあった、教育委員会と教職志望者のマッチングを行うあるNPOでは、教員志望者に模擬授業を徹底的にやらせるということだが、社会人経験者に何を期待するのかを履き違えると、「その場しのぎのための社会人活用」に陥るかもしれない。実際、同NPOによって教員になった者は、ほとんどが臨時免許状を授与されて教壇に立っている。臨時免許状は、普通免許状を持つ者を採用できない場合に授与する免許状である。

 今回の議題は、学校現場の人手不足に端を発していると思われるが、学校現場(を代表する人)の考えは、人手不足は困るし教員採用試験の倍率低下による質の低下も困るが、一方で優れた知識や経験を持つ社会人を積極的に採用していくことは当面考えていない、ということなのだろう。
 社会人経験者を学校現場に迎え入れることの効果は、必ずしもわかりやすいものとは言えない(民間人校長の検証さえまだ行われていない)。しかしながらあらゆる職種において、多様な人材を活用することが効果的とされ、実際に進められている。
 教育委員会をはじめ、学校教育現場の意識改革こそ、今取り組むべき課題ではないだろうか。(S)

2019年09月03日