日本の教師のウェルビーイングと制度的保障

独立行政法人教職員支援機構 監修
本図 愛実 編著
B5判182ページ 定価:本体2,500円+税
ISBN978-4-909124-57-9 C3037

●独立行政法人教職員支援機構「日本発教師のwell-being(個人的社会的幸福)のための制度的保障に関する調査研究プロジェクト(令和2〜3年度)」の報告書「日本の教師のウェルビーイングと制度的保障」をもとに作成。
●新たにOECD教育スキル局シニア政策アナリスト・田熊美保氏へのインタビューを収録。教師,児童生徒をはじめ学校関係者のウェルビーイングに関する国際的な研究知見を解説。

 ウェルビーイングの追求は,OECD による価値づけによって国際社会に流布した。OECD は2011 年の創立50 周年を機に,それまでのGDP単一指標を改め,個人と社会のためのウェルビーイングの多元的指標を提示した。以後,隔年で,OECD ウェルビーイング指標による各国状況が一覧として供されている。指標群の礎にある思想は,個人の主観とコミュニティの重視である。人間は,心理的あるいは物理的に様々なコミュニティに属しており,そこにおいて安心・安全であるという主観はウェルビーイングに直結する。ウェルビーイングとは,個人的,社会的に満たされている状態である。それらの追求は,測定可能な経済の総体だけでは捉えられない。これらはまた,個人の幸福を起点に社会の幸福を考える厚生経済学の研究知見に依拠したものである。
 翻って教員が属するコミュニティについてはどうか。心理的あるいは物理的なコミュニティの中で安心・安全な状態にあるのか。このことを考えるとき,日本の教師たちは幸福なのか,という研究上の問いが浮上する。この問題意識について,本書では,ウェルビーイングの制度的保障において重要と考えられる視点について対象化した。子どものウェルビーイングは,教師のウェルビーイングなくして成立しえない。子どもの幸福を追求する人々とともに,小さくとも歩を進めることができたらと願う。

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目 次

インタビュー 学校を取り巻くウェルビーイングの国際的視点
田熊 美保(OECD教育スキル局シニア政策アナリスト)
オブザーバー:鈴木 耕平(UNESCOパリ本部ESD課) 聞き手:本図 愛実

序 章 課題の所在
1.何を明らかにするのか/2.高度な専門職として社会的に認知されているのか/3.新卒者に人気の職か/4.本書における検討

Part 1 OECDの教師ウェルビーイング
第1章 ウェルビーイングの生成と課題
1.はじめに/2.GDPに代わる尺度として/3.Beyond GDP: ダッシュボード型の指標へ/4.教師のウェルビーイングと教員のウェルビーイング/5.本書について
第2章 多様性・公正とウェルビーイング  TALISから見えるものと見えないもの
1.多様性・公正と教師の専門性 ―OECDの動向と日本/2.日本の多様性に関わる状況/3.TALISから見えるもの ―多様性に対する実践と教師の自己効力感の国際比較/4.TALISからは見えないもの ―誰が教師になるのか/5.まとめ
第3章 エージェンシーとウェルビーイングを踏まえた教員研修のデザインとその検証 弘前大学教職大学院の充実期研修講座を事例として
1.OECD Future of Education and Skills 2030 におけるエージェンシー概念/2.教師のウェルビーイングとエージェンシーを意識した研修の在り方/3.弘前大学教職大学院の充実期研修講座/4.ウェルビーイングとエージェンシーに着目した効果測定/5.実践事例から得られる示唆

Part 2 制度保障のための重要視点
第4章 スウェーデンとウェールズにみる教師ウェルビーイングの異なるアプローチ
1.はじめに/2.スウェーデンにおける教員不足対策/3.ウェールズにおける教員のウェルビーイングの保障/4.おわりに
第5章 ウェルビーイングとジェンダーの課題
1.はじめに/2.教職の女性化と日本の状況/3.日本の教員組織の特徴/4.学校組織のジェンダー格差/5.教職のキャリアモデルと機会のジェンダー格差/6.環境面からの働き方改革〜日常のなかの機会格差/7.各都道府県の学校組織のジェンダー格差/8.キャリア成長機会へのアクセス/9.おわりに
コラム1 教員の離職率
第6章 通勤と人事異動から見る教員のウェルビーイング
1.はじめに/2.通勤をめぐるリスク/3.長時間通勤の実態について/4.教員の人事異動方針の実態について/5.おわりに

Part 3 若手教員のウェルビーイング
第7章 X市教職員の意識調査から
1.質問内容の構成/2.アンケート調査の実施/3.調査内容と結果の概要/4.まとめ
第8章 初期準備段階としての教育学部学生意識調査から
1.OECDによる初期教員への着目/2.調査のデザイン/3.分析/4.考察
コラム2 日本の教師は自分に厳しい?

参考資料1  中間報告 2022年3月22日 「日本発教師のwell-being(個人的社会的幸福)のための制度的保障に関する調査研究プロジェクト」自治体調査の結果について(報告)
参考資料2  OECD・TALIS2018における教職専門性の定義と政策の指針 TALIS 2018 Results(Volume I)Teachers and School Leaders as Lifelong Learners Results(OECD, 2019)より


執筆者(所属/執筆担当)
本図 愛実(宮城教育大学教授/序章,第7章,第8章)
百合田 真樹人(教職員支援機構教授/第1章,第5章)
吉田 美穂(弘前大学教授/第2章,第3章)
齋藤 亘弘(仙台市立八乙女中学校長/第7章)
林 寛平(信州大学准教授/第4章)
柴田 聡史(琉球大学准教授/第6章)