仏教教育学と教育博物館の研究

土井 進 著
A5判456ページ 定価:本体3,500円+税
ISBN978-4-909124-55-5 C3037

唐澤富太郎が遺した「教育博物館」はなぜ、どのように生まれたのか──唐澤富太郎研究の第一人者が「教育博物館」と「仏教教育学」の系譜を辿る中で考究する。

 筆者が唐澤富太郎研究を始めた直接的契機は、東京文理科大学の最後の卒業生で金沢大学、和光大学、立教大学、中央大学で教育と研究に従事された中野光先生の激励を受けたことであった。直筆の書簡において、中野先生は「土井先生は唐澤富太郎研究の第一人者」になってください、と過分な励ましをしたためてくださったのである。それまでは、唐澤は恩師であり、尊敬の対象でこそあれ研究の対象として観ることなど思いもよらないことであった。しかし、唐澤富太郎研究に立ち向かうことができる人物は、数多くの弟子の中で誰よりも長く唐澤に師事してきた筆者をおいて他に誰もいないことを確信することができた。この仕事は、筆者に与えられた使命であると自覚するようになった。
 昭和43年にご自宅の隣に鉄筋3階建ての「教育博物館」が、竹馬の友の協力によって建設された。この年に筆者は東京教育大学に入学し、「教育参加」の時間に、唐澤先生の「聖徳太子と法華義疏」の講義を聴いた。この先生のもとで仏教と教育の研究をしたいと願い、唐澤先生に即座に師事することを決めた。それから約30年間、先生にお仕えし、挫折に次ぐ挫折のなかを「事上錬磨」して「教育学」の研究と教育の実践の道を一筋に歩んでくることができた。
 唐澤富太郎先生の研究と教育を後世に遺すという大きな使命に向かって、誠心誠意、師恩・学恩の万分の一にも報いたいと願って執筆に取り組んだ。しかし、筆者の力量不足のため不行き届きの点は免れがたい。読者の皆様のご批正をお願いする次第である。

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目 次

口絵― 恩師・唐澤富太郎先生と『教育博物館』4巻の完成に向けての「師弟同行・師弟共育」の十年

第1部 教育学研究への志
第1章 唐澤富太郎、畢生の大業『教育博物館』の原点 ―幼少年期の出雲崎での人間形成―
第2章 唐澤富太郎の教育学研究 ―教育的真実の探究―

第2部 仏教教育学
第3章 唐澤富太郎の初期教育学研究における『ナトルプの社会教育学』から仏教教育学へ
第4章 唐澤富太郎の「仏教と教育」を結ぶ「教育の宗教的基礎」の研究 ―東京文理科大学教育学研究科・奈良女子高等師範学校時代の仏教教育研究―
第5章 唐澤富太郎が究明した親鸞・道元・日蓮の「人間観・教育観」の考察 ―大脳生理学の「人間性」についての知見を援用して―
第6章 唐澤富太郎が『教育博物館』において究明した人間形成における“もの”と“こころ”の相即の妙

第3部 教育博物館
第7章 唐澤博物館と『教育博物館』の教材学的意義
第8章 唐澤富太郎の古道具屋への教育資料探求行と「唐澤博物館」の存在意義
第9章 唐澤富太郎の開拓的教育史研究としての『教育博物館』の意義
第10章 唐澤富太郎の文献研究による『教科書の歴史』から実物研究による『教育博物館』への内的脱皮
第11章 唐澤富太郎の『教師の歴史』から『教育博物館』への質的転換 ―筆跡による教育者の人間像の探究―
第12章 唐澤富太郎の実物資料の「展示会」による社会貢献活動の意義 ―小学校・デパート・博物館での実物資料の公開―
第13章 教育博物館の系譜

第4部 唐澤博物館における実物教育
第14章 博物館の実物資料のもつ教育効果 ―「生涯学習概論」における唐澤博物館との連携―
第15章 唐澤博物館におけるスケッチによる実物教育の意義
第16章 実物のスケッチを通して学生が看取した“こころ”と唐澤富太郎の人物像
第17章 唐澤富太郎の「師範タイプ」へのレジスタンス ―唐澤博物館における師範教育の課題探究型学習―
第18章 「総合的な学習の時間の指導法」における「近代日本教育史」の単元計画 ―唐澤富太郎著『教育博物館』を資料として―

第5部 唐澤富太郎先生の指導を受けた研究論文
第19章 唐澤富太郎先生の師恩・学恩
第20章 英国人外交官W.G.アストンが高く評価した貝原益軒の道徳教育論の特質 ―“A HISTORY OF JAPANESE LITERATURE”を資料として―
第21章 日本人形成に及ぼした大乗仏教経典の人間形成的意義 ―法華経を中心として―


著者紹介
土井 進
1948年富山県立山町生まれ。
東京教育大学大学院教育学研究科修士課程修了 教育学修士
東京都社会教育指導員、社会教育主事補、東京都中学校教諭、お茶の水女子大学附属中学校教諭、同文教育学部非常勤講師、信州大学教育学部附属教育実践研究指導センター助教授、同附属教育実践総合センター長、同教育科学講座教授、同大学院教育学研究科教授、同附属松本小学校長、淑徳大学人文学部特任教授、長野保健医療大学大学院保健学研究科・非常勤講師などを歴任。