学習指導要領「次期改訂」をどうする

渡辺 敦司 著
四六判226ページ 定価:本体1,700円+税
ISBN978-4-909124-54-8 C3037

 岸田文雄首相を議長とするCSTIは2022年6月2日の本会議で、「Society 5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ」を正式決定した。そこには27年を「改訂(見込み)」とした上で「教科等の本質を踏まえた教育内容の重点化や教育課程編成の弾力化を進め」ることが明記され、具体的な検討体制として中央教育審議会初等中等教育分科会の「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた学校教育の在り方に関する特別部会」(22年2月発足)で22~24年にわたって「基本的な方向性を検討」する工程表も示されている。いわば「次期改訂」を検討することが、政府全体の方針として決まったのだ。
 他方、「ゆとり教育批判」や大学入試改革の「頓挫」に象徴される通り、世間や政界の無理解が、時代に先駆ける改革にブレーキをかけてきた。その阻害要因を少しでも取り除かねば、日本はますます世界での地位を低下させかねない。
 本書は、合田哲雄内閣府審議官(当時)と、資質・能力検討会から国の教育課程改革に深く携わってきた奈須正裕上智大学教授の2人に対するロングインタビューを目玉として、いわゆる「ゆとり教育批判」にさらされた1998~99年改訂指導要領の前史(89年改訂以降)から現在に至るまで、教育課程改革に関連する諸改革も含めて振り返り、検証を試みる。併せて、改訂のヒントになりそうな動きも紹介する。

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目 次

第1章〈インタビュー①〉学習内容の重み付けと「教育プログラム」化が課題
    ――二度の改訂に携わった内閣府の合田哲雄審議官に聞く
正解主義と同調圧力はイノベーションの「敵」/経産省が霞が関の「同業他社」に/「霞が関の隘路」を乗り越える/トータルな政策として示すことが大事/多様な人材を迎え入れるために、教員制度改革を推し進める/地域や学校が主体性を発揮し、構造転換を/「優先順位」で教科を捉え直し、新たな評価につなげる/08年改訂の「言語活動」とコンピテンシー・ベース/画期的な「安彦検討会」と「ゆとり教育批判」の余波/17年改訂の「課題」の解決に向けて/子どもの多様化と教育のデジタル化/「教育プログラム」で教育制度を再構築する/定数配置にも新たな発想が必要/デジタル化の先にある「キラキラ感」の創出

第2章〈インタビュー②〉コンピテンシーからコンテンツを整理し、行政はその支援を
    ――カリキュラム研究の立場から奈須正裕・上智大学教授に聞く
「見方・考え方」でカリキュラムのスリム化を図る/教科書の編集趣旨の理解が肝/期待される教育委員会の行政手腕/コンピテンシーを「教える」/教科の内容研究で系統性を学ぶ/カリキュラムの「過積載」はコンピテンシー・ベースで解決/授業時数の扱いは「授業時数特例校制度」の成果に期待/「ゆとりと充実」と“Less is more”/現場の主体性を奪った「58年体制」/STEAM教育は新指導要領下でも対応可能/経産省による教育改革の影響と「個別最適な学び」/人間の学習理論に基づく授業を/「次期改訂」への期待と行政の責任・役割

第3章 誤解だらけの2000年代教育改革
    ――ゆとり教育批判・生きる力・高大接続改革で問われた政策運営能力
第1節 「ゆとり教育」騒動をめぐって
キャッチフレーズと信じられたストーリー/そもそも「生きる力」とは/臨教審路線という90年代の「文脈」/隠された論点=学校週5日制/二つのキャンペーンの影響力/方針は「転換」されたのか/見直しの当人が「間違っていなかった」!?/小泉構造改革の傷跡/「学力低下」は本当か/「ゆとり教育」論議に本当の決別を
第2節 「安彦検討会」の意義と限界
誰も書かなかった初会合/教育学の専門家から成る少数精鋭の「勉強会」/日本型に整理した「生きる力」/既に固められていた改訂の方針/安彦元座長の「苦言」
第3節 高大接続改革の「挫折」
高大接続改革イコール「入試改革」という誤解/経済界からの大学批判と「全入時代」/常に議論をリードした安西祐一郎氏/「大学改革実行プラン」の所産/特別部会の審議を半年遅らせただけの「実行会議」/政治主導の迷走、そして破綻/「明治以来の大改革」はどこへ

第4章 政治・行政の間で揺れる教育の行方
    ――改革の主導権をめぐる「霞が関の隘路」
第1節 経産省「未来の教室」の衝撃
「教育専門家」からの申し立て/教育の「OS」を変える?/政治主導型教育政策の構造/似て非なる二つのリポート/「個別最適」で「協働的」な学びとは/「教育データ利活用」とは何か
第2節 文科省は教職の「魅力」を回復できるか
炎上した「#教師のバトン」/最後まで政治に振り回された教員免許更新制/優秀な学生ほど教職を避ける/定数改善計画の「空白」と「教師不足」/事務局主導の「研修履歴管理システム」で個別最適化!?
第3節 混迷は止揚されるか
「突然」提案された特別部会/特別部会が今後の学校教育の在り方を担う

第5章 教育課程編成権の回復に挑む最先端の取り組み
    ――仙台二華IBとCoREFジグソー法に学ぶ
第1節 IBが示すカリマネの理想像
本気の国際貢献を通して学ぶ仙台二華/IB教育推進の現状と新学習指導要領/物理で料理!? 真正の学習/生徒自身の概念形成に時間をかける/知識量とのバランスに悩み
第2節 科学的根拠に基づく授業研究
故・三宅なほみ氏が始めた「CoREF」/知識構成型ジグソー法/学習科学の可能性とは

終章 「日本型」教師に信頼を置いた改革を
    ――日本の教師に全力で活躍してもらうために
1000年後も命を守る「石碑」を生んだ授業/全国の「阿部先生」を励ますために/「市民性教育」に軸足を/コンテンツの再考とコンピテンシーの本格整理を/「生きる力」から「個別最適・協働」まで再検討を/今こそ「教育の力」を


著者紹介
渡辺 敦司
1964 年北海道生まれ。
横浜国立大学教育学部卒。1990年、教育専門紙「日本教育新聞」記者となり、文部省、進路指導問題などを担当。1998年よりフリー。時事通信社『内外教育』の常連執筆や、教育専門誌に多数連載を持つとともに、「ベネッセ教育情報サイト」「オトナンサー」などのウェブサイトでも最新の教育時事を積極的に発信している。