唐澤富太郎と教育博物館の研究 実物教育による“もの”と“こころ”の探究

土井 進 著
A5判196ページ 定価:本体2,100円+税
ISBN978-4-909124-36-4 C3037

本書は、日本及び世界の教科書研究の第一人者である教育学研究者・唐澤富太郎を研究対象とする。唐澤の教育学研究の強みは、根拠となる「実物」に基づいて「教育」を論じているところにあった。唐澤が収集した数万点もの実物資料は、「児童文化」「学校文化」「生活文化」に分類され、そのうち7000点が「唐澤博物館」(東京都練馬区)に展示されている。本書は、唐澤が「実物教育」を研究対象とするようになった経緯を探るとともに、著者が唐澤博物館と連携して行った授業実践における学生の実体験を紹介することを通じて実物資料の価値に迫る。その上で、実物資料の収集を通して唐澤が何を目指したのかについて考察する。

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目 次

第1章 唐澤富太郎先生の師恩・学恩
1.「聖徳太子と法華義疏」の講義を聴き唐澤先生に師事
2.練馬の「教育博物館」を初めて訪問
3.卒業論文指導
4.修士論文指導
5.博士課程入学試験における挫折と恩師の厳愛の指導
6.「教育博物館」の資料を活用した全中社研東京大会での研究授業

第2章 「教育博物館」の系譜
1.手島精一と教育博物館
2.棚橋源太郎と東京高等師範学校附属東京教育博物館
3.唐澤富太郎が実物研究を志向した直接的契機と「教育博物館」建設への使命感
4.私設「唐澤博物館」として公開

第3章 唐澤富太郎、畢生の大業『教育博物館』の原点
(論文)唐澤富太郎、畢生の大業『教育博物館』の原点 ―幼少年期の出雲崎での人間形成―
I 序論
1.研究の目的
2.研究の方法
II 本論
1.唐澤富太郎の実物による人間形成の探究への道
2.唐澤富太郎の教育学研究の根本精神
3.人間形成における“もの”と“こころ”
4.幼少年期の出雲崎での人間形成
III 結論
先生のお宅で徹夜の清書 昭和45(1970)年5月30日(土)~31日(日)

第4章 唐澤富太郎の「仏教と教育」を結ぶ「教育の宗教的基礎」の研究
(論文)唐澤富太郎の「仏教と教育」を結ぶ「教育の宗教的基礎」の研究 ―東京文理科大学教育学研究科・奈良女子高等師範学校時代の仏教教育研究―
1.研究の目的
2.研究の方法
3.唐澤富太郎の「教師」、そして「教育学」への立志
4.人生を導く「主体的真実」を求めて「教育の宗教的基礎」を探究
5.唐澤富太郎の奈良女子高等師範学校時代の仏教教育研究
6.奈良女子高等師範学校における「教師」としての唐澤富太郎
7.結語

第5章 人間形成における“もの”と“こころ”の相即の妙
(論文)唐澤富太郎が『教育博物館』において究明した人間形成における “もの”と“こころ”の相即の妙
I 研究の目的・方法・先行研究
1.研究の目的
2.研究の方法
3.唐澤博物館に関する先行研究
II 唐澤富太郎が究明した“もの”と“こころ”の相即の妙
1.自らの天性に最も適したライフワーク『教育博物館』
2.“もの”と“こころ”は相即し、一如であると観る仏教的世界観
3.大乗仏教における物心一如の捉え方
4.「物となって考え、物となって行う」西田哲学を実証
III 唐澤富太郎が“もの”から“こころ”を看取した事例
1.凧についての人間形成的考察
2.貝原益軒の書から唐澤が看取した益軒の人物像
3.漆の原木から唐澤の心眼に写った日本の伝統文化
IV 学生が唐澤博物館の“もの”を通して看取した“こころ”
1.学生が着目した実物資料
2.平成29(2017)年度の学生が見た“もの"と“こころ”
V 結論

第6章 日本人形成に及ぼした大乗仏教経典の人間形成的意義
(論文)日本人形成に及ぼした大乗仏教経典の人間形成的意義 ―法華経を中心として―
I はじめに
1.大巌寺研修での僧堂教育の体験
2.我が家にあった一書「お経」による人間形成
II 長谷川良信と渡邊海旭における大乗仏教経典の研鑽と教育実践
1.長谷川良信における菩薩道の実践と大乗淑徳学園の建学
2.淑徳大学歌に結実された長谷川良信の菩薩道
3.渡邊海旭における大乗仏教経典の研究と教育実践
III 教育学者唐澤富太郎の「聖徳太子と『法華義疏』」の講義
1.唐澤富太郎の講義に感動して師事する
2.恩師唐澤富太郎のもとで儒教と仏教の研究
IV 法華経経典のもつ人間形成的意義
1.一大乗の思想を明確に説いた四仏知見
2.法華経の諸法実相の哲学の人間形成的意義
3.法華七譬と長者窮子の譬
V 法華経を世俗教育の教科書として捉えた髙橋俊乗の実証的研究
1.世俗教育の教科書として用ひられたる法華経
2.大乗仏教経典が日本人形成の教科書的意義を有することを示す統計資料
VI 『大日本国法華経験記』にみる法華経研鑽による人間形成
1.『大日本国法華経験記』の概要
2.法華経研鑽の動機となっている愚の中の極愚の自覚
3.法華経の経力と修行者の信力の感応道交による人間形成
VII おわりに

第7章 博物館の実物資料のもつ教育効果
(論文)博物館の実物資料のもつ教育効果 ―「生涯学習概論」における唐澤博物館との連携―
1.目的
2.「生涯学習概論」における唐澤博物館との連携
3.学生の清新な眼に映った唐澤博物館の第一印象
4.実物資料が語る唐澤富太郎の人間像
5.実物資料のもつ教育効果
6.結論
7.今後の課題

第8章 唐澤博物館におけるスケッチによる実物教育の意義
(論文)唐澤博物館におけるスケッチによる実物教育の意義
1.研究の目的
2.研究の方法
3.研究の経過
4.スケッチによる実物教育のための事前学習
5.スケッチによる実物教育の意義についての考察
6.報告書『唐澤博物館における学生の実物資料のスケッチによる教育効果』の評価
7.結論

第9章 実物のスケッチを通して看取した“こころ”と唐澤富太郎の人物像
1.「日本の児童文化」に関するスケッチ
2.「日本の学校文化」に関するスケッチ
3.「日本の生活文化」に関するスケッチ
4.おわりに

第10章 実物資料の「展示会」による社会貢献活動の意義
(論文)唐澤富太郎の実物資料の「展示会」による社会貢献活動の意義 ―小学校・デパート・博物館での実物資料の公開―
はじめに
1.文献研究から実物研究へ、新しい教育史研究の方法の開拓
2.唐澤が実物研究を志向した直接的契機と「教育博物館」の建設
3.文献研究から実物研究への転換期に当たる昭和40年代
4.「教育百年」(昭和47年)における唐澤の社会貢献活動
5.唐澤富太郎の実物資料の「展示会」による社会貢献活動の意義


著者紹介
土井 進(どい すすむ)
昭和23(1948)年富山県生まれ。東京教育大学大学院教育学研究科修士課程修了。修士(教育学)。
社会教育主事補、東京都公立中学校教諭、お茶の水女子大学附属中学校教諭、信州大学教育学部教授などを経て、淑徳大学人文学部教授。専門は実践的指導力を備えた教員の養成、唐澤富太郎と教育博物館の研究。