ソーシャル・キャピタルで解く教育問題

露口 健司 編著
A5判 252ページ 定価:本体2,400円+税
ISBN978-4-909124-24-1 C3037

本書は、地域再生・地域活性化、子どもの貧困と不平等・格差、教員や成人の幸福に関する3つの教育問題について、ソーシャル・キャピタルの視点からの分析・考察を行い、実践的示唆を得ることを目的とする。
【第Ⅰ部 地域・コミュニティ】第1章では、ソーシャル・キャピタルの始源と言われるハニファンの論稿を、教育哲学の視点から丁寧に読み解くことで、現代教育に対する示唆を得る。第2章では、地域活性化の具体的方法論である「学校支援地域本部事業」を対象とする約10年間の観察調査から、ソーシャル・キャピタルが再構築される過程を記述する。第3章では、筆者らが7年近く調査を継続している校区を事例として、コミュニティ・スクールの導入がソーシャル・キャピタルの醸成を経由して、地域活性化に至るプロセスを記述する。
【第Ⅱ部 不平等・格差】第4章では、近年増設傾向にある子ども食堂の類型作業にしたがい、困窮・孤立世帯の子どもの支援活動を実施する子ども食堂(共生食堂・ケア付食堂)を対象として、ソーシャル・キャピタル醸成の過程を記述する。第5章では、就学前(保育所・幼稚園)から小学校に移行する過程における保護者ネットワークの変容をインタビュー調査によって記述する。第6章では、高校間におけるソーシャル・キャピタル量の格差とソーシャル・キャピタル獲得機会の格差について検討する。第7章では、幼稚園児・保育園児の基本的生活習慣の習得状況に対するソーシャル・キャピタル(世帯に両親が揃っている、きょうだいの数が少ない、親子間の個人的な事柄についての会話が多い、子どもの就学前に母親が働いていない、子どもの大学進学への親の関心がある)の影響を検証する。第8章では、子どもと地域住民、子どもと教師、子ども相互のソーシャル・キャピタルによる、家庭内ソーシャル・キャピタルの補完機能について検討する。
【第Ⅲ部 幸福・生活満足】第9章では、学歴取得と生活満足感の関係における媒介要因として、キー・コンピテンシー、健康、ソーシャル・キャピタルが位置づくかどうかを検討する。第10章では、教師の幸福度に対して職場に蓄積されているソーシャル・キャピタルがどの程度の影響を及ぼしているのかを明らかにする。

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目 次

序章 ソーシャル・キャピタルによる教育問題の解決
1.ソーシャル・キャピタルと教育
(1)教育問題=つながり問題
(2)ソーシャル・キャピタル醸成による教育問題の解決
2.地域再生・地域活性化
(1)ソーシャル・キャピタルによる地域活性化
(2)ソーシャル・キャピタルとコミュニティ・リーダーシップ
3.子どもの貧困と不平等・格差
(1)ソーシャル・キャピタル醸成システムとしての子ども食堂
(2)高等学校におけるソーシャル・キャピタル格差
(3)保護者間のソーシャル・キャピタル格差
(4)家庭内ソーシャル・キャピタル格差
4.幸福
(1)幸福への関心
(2)教育と幸福
(3)働き方と幸福
5.本書の構成

第Ⅰ部 地域・コミュニティ
第1章 ソーシャル・キャピタル概念の源流をもとめて―ハニファン(L. J. Hanifan)の教育実践とその位置づけ―
1.はじめに
2.ハニファンの教育実践―公立学校を起点に地域を立て直す―
3.ハニファン実践を取り巻く様々な要素
(1)ハニファン論文「The Rural School Community Center」の周囲
(2)ソーシャル・センター運動
(3)社会福音運動という磁場
4.教育思想史におけるハニファンの位置づけ―ひとつの可能性―
(1)ジェーン・アダムズのソーシャル・セツルメント運動
(2)デューイの「ソーシャル・センターとしての学校」
5.おわりに

第2章 学校支援を通した地域のソーシャル・キャピタル再構築の過程―大分県佐伯市の「協育」関連事業を事例として―
1.学校支援への期待の広がり
2.地域のソーシャル・キャピタルをとらえる方法
(1)大分県佐伯市の学校と地域を巡る状況
(2)地域のソーシャル・キャピタル再構築の過程をとらえる枠組み
(3)調査の方法
3.学校―地域間関係の変化と学校支援の活動の広がり
(1)事業実施時の地域人材活用の状況
(2)学校―地域間関係の特徴
(3)地域人材の活用の広がりと定着
4.地域におけるソーシャル・キャピタル再構築の方法
(1)地域のソーシャル・キャピタルの弱体化とその対応策
(2)「会議体の組織化」という方法
(3)「関係基盤」の活動の活性化
5.校区コーディネーターの役割認識と活動の特徴
(1)コーディネーターの経歴と役割認識
(2)コーディネーターの社会的ネットワーク構築の方法
(3)学校と地域の信頼関係を構築するコーディネーターの活動
6.実践への示唆:学校支援を通したソーシャル・キャピタル再構築の方法

第3章 学校運営協議会設置による地域活性化―ソーシャル・キャピタル論の視座から―
1.はじめに
2.研究の動向
(1)学校運営協議会とソーシャル・キャピタル
1)学校運営協議会
2)ソーシャル・キャピタル
3)学校運営協議会とソーシャル・キャピタルとの関係
(2)学校運営協議会と地域活性化との関係
3.調査対象事例の概要
(1)Y小学校区の概要
(2)Y小学校学校運営協議会の概要
4.調査方法
5.Y小学校区における学校運営協議会設置による地域活性化
(1)地域特性
1)新しい参入者と既存の住民
2)商店街で働く住民と農業に従事する住民
3)学校の取り組みに関わる住民と学校の取り組みに関わらない住民
(2)活性化に対するイメージ・認識とその実際
(3)活性化の促進要因とさらなる検討課題
1)CSの設置・実践
2)地域住民による多様な「場」と「活動」の設定
3)目的・目標としての「子どもの育ち」
6.おわりに
(1)学校運営協議会設置による地域活性化のまとめ
(2)今後の課題

第Ⅱ部 不平等・格差
第4章 「子ども食堂」を通じて醸成されるつながり―困難を抱える子どもにとっての意義と課題―
1.「子ども食堂」の広がりと本章の目的
2.先行研究の検討
(1)子どもの貧困と社会的剥奪の概念
(2)参加への着目
3.分析データ
4.子ども食堂の活動分析
(1)子ども食堂の活動
【A子ども食堂】
1)運営者の属性や経歴,運営方法(目標・対象者・回数・内容など)についての概略
2)子ども食堂で観察される子どもの様子や大人とのかかわり,運営者の思い
3)特徴的な出来事
【B子ども食堂】
1)運営者の属性や経歴,運営方法(目標・対象者・回数・内容など)についての概略
2)子ども食堂で観察される子どもの様子や大人とのかかわり,運営者の思い
3)特徴的な出来事
(2)活動の分析
1)運営者の属性や経歴,運営方法(目標・対象者・回数・内容など)についての概略
2)子ども食堂で観察される子どもの様子や大人とのかかわり,運営者の思い
3)特徴的な出来事
5.考察─今後の課題

第5章 学校信頼と保護者ネットワーク―小学校1年生の保護者へのインタビュー調査から―
1.変容する家族と保護者ネットワーク
2.これまでの先行研究
3.インタビュー調査の概要
4.保護者ネットワークの性質
(1)ネットワークの疎密
(2)情報交換の頻度
(3)会合参加層の偏り
(4)集団構成
(5)父親の参加度
(6)保護者ネットワークの展開
5.考察と今後の展望

第6章 高校教育におけるソーシャル・キャピタル格差
1.高校教育制度=トラッキング・システム
2.高校間のソーシャル・キャピタル格差
3.仮説
4.分析手法
(1)データ
(2)ソーシャル・キャピタル変数(目的変数)
(3)説明変数
(4)分析モデル
5.分析結果
(1)記述統計
(2)高校ランク・学科別の学校水準変数の平均値
(3)ML-SEMの結果
6.議論とインプリケーション
(1)結果の解釈
(2)研究の限界
(3)政策的示唆
(4)実践への示唆

第7章 幼少期の基本的生活習慣の習得と家庭内ソーシャル・キャピタル
1.幼少期の基本的生活習慣を家庭内ソーシャル・キャピタルからみる意義
2.家庭内ソーシャル・キャピタルが基本的生活習慣の習得に及ぼす影響
3.幼少期における基本的生活習慣の習得のための示唆

第8章 家族とのつながりに恵まれない児童は地域とのつながりを構築することで家族とのつながりの不足をどの程度補うことができるのか
1.本章の目的
2.検討の方法
(1)調査の方法
(2)変数の設定
(3)仮説の設定
3.結果
(1)「教科への肯定的態度」,「地域貢献意欲」に関する下位群と上位群の比較
(2)家族とのつながり下位群の児童における「住民とのつながり」「家族とのつながり」「担任教師からの期待」「他の児童からの支援」が,各「教科への肯定的態度」「地域貢献意欲」に与える影響
(3)家族とのつながり上位群の児童における「住民とのつながり」「家族とのつながり」「担任教師からの期待」「他の児童からの支援」が,各「教科への肯定的態度」「地域貢献意欲」に与える影響
(4)家族とのつながり下位群の児童における「住民とのつながり」「家族とのつながり」「担任教師からの期待」「他の児童からの支援」が,各「教科への肯定的態度」,「地域貢献意欲」に与える影響と,上位群児童におけるそれらとの比較 
4.考察

第Ⅲ部 幸福・生活満足
第9章 教育達成と主観的幸福感の関係―学歴は個人の生活満足感を高めることができるのか?―
1.問題設定
(1)教育達成と主観的幸福感
(2)教育と主観的幸福感の媒介要因
(3)教育達成と主観的幸福感の調整要因
(4)主観的幸福感に対する地域レベル要因の影響
(5)研究課題
2.方法
(1)アンケート調査の概要
(2)測定
1)被説明変数
2)個人レベルデータの説明変数
3)地域レベルデータの説明変数
3.分析
(1)記述統計量
(2)マルチレベルモデリング
1)学歴と主観的幸福感の間接効果
2)学歴と主観的幸福感の調整効果
3)地域レベル変数の効果
4.考察
5.政策的含意
6.限界

第10章 教師の幸福を左右する職員室のソーシャル・キャピタル
1.本章の目的と方法
(1)原因に職員室ソーシャル・キャピタル,結果に幸福度
(2)幸福と心の不健康・不健康リスクを測る方法
2.本章測定の教師の幸福度の状況
(1)幸福度の回答状況
(2)ストレスの原因(ストレッサー)が高い教師の「この2年の幸福度」
(3)幸福度の相関変数の探索
3.教師の幸福度と心の不健康を左右する諸要因
(1)重回帰分析によるバーンアウトとのメカニズムの比較
(2)ロジスティック回帰分析による特定の回答者の規定要因の探索
4.総合考察

執筆者一覧・編者紹介


執筆者一覧(所属・執筆担当、執筆順)
露口 健司 (愛媛大学大学院教育学研究科教授/序章・第9章)
杉田 浩崇 (愛媛大学教育学部准教授/第1章)
荻野 亮吾 (東京大学高齢社会総合研究機構特任助教/第2章)
諏訪 英広 (兵庫教育大学大学院学校教育研究科准教授/第3章)
田中 真秀 (川崎医療福祉大学医療技術学部助教/第3章)
畑中 大路 (長崎大学大学院教育学研究科准教授/第3章)
柏木 智子 (立命館大学産業社会学部准教授/第4章)
竹森 香以 (フェリス女学院中学校・高等学校教諭/第5章)
松岡 亮二 (早稲田大学留学センター専任講師/第6章)
益山 未奈子(第7章)
山下 絢  (日本女子大学人間社会学部准教授/第7章・第9章)
大林 正史 (鳴門教育大学大学院学校教育研究科准教授/第8章)
高木 亮  (就実大学教育学部准教授/第10章)
※所属は2019年1月現在