篠原 清昭 著
A5判上製 320ページ 定価:本体4,800円+税
ISBN978-4-909124-05-0 C3037
教育における民主化の思想は、単純に国家主義・権威主義からの自由を意味する自由化(旧自由主義)のみに置くことはできない。その意味で、現在の「民主主義」は本当に民主主義的なのか。
本書は、「教育における民主主義」と「教育による民主主義」を台湾に学ぶ。具体的には、台湾において「民主化」を目指した民間教育運動と2つの学生運動(1990年野百合学生運動、2014年太陽花学生運動)に焦点を当て、それぞれが起こった政治的・社会的背景や学生運動後の政策動向について、文献や聞き取り調査を通じた研究を行う。その上で、政治社会における民主化の動態を、そこに登場するアクターの対立・抗争・妥協・協調等の社会関係の変化により説明し、現在台湾に生起する「第二の民主化」のあり様を分析する。
序章—本書の視点・考察枠組みと概要—
第一節 本書の視点と目的
第二節 本書の考察枠組み
第三節 本書の対象と方法—台湾をみることの意味—
第四節 先行研究と本書の価値
第五節 本書の概要
第Ⅰ部 教育における民主化の生成過程(1987年–1993年)
第一章 教育社会運動と教育の民主化
—民間教育運動団体の民主化運動—
第一節 民間教育運動団体の民主化運動
1.民間教育運動団体の出現と教育改革
2.民間教育運動団体の組織化と戦略
3.民間教育運動団体による教育社会の形成
—「四一〇教改大遊行」—
第二節 民間教育運動団体内の対立と教育運動の葛藤
1.澄社の教育運動と対立
2.主婦聯盟の教育運動と対立
3.人文教育基金會の教育運動と対立
4.教育における民主化運動の葛藤
小結
第二章 学生運動と民主化—野百合學運(1990年)の民主化運動—
第一節 1980年代の学生運動と校園の民主化
—「自由之愛」運動—
1.校園民主化にみる学生運動の生成と模索(1980年–1985年)
2.「自由之愛」運動にみる学生運動の転換と葛藤(1986年–1989年)
第二節 野百合學運(1990年)と政治の民主化
1.野百合學運の発生と展開
2.野百合學運の戦術と戦略
小結
第Ⅱ部 教育における民主化の移行過程(1994年–2003年)
第三章 教育における民主化の立法化—教育基本法の制定—
第一節 台湾における教育法制の歴史過程
—教育基本法制定前史—
1.国民政府の大陸教育法移植期における教育法制
2.戒厳令体制下の台湾教育法官制期における教育法制
第二節 台湾における教育基本法の立法過程
1.立法委員による法案提出過程における教育基本法の生成
2.立法院における審議過程と教育基本法の成立
⑴ 教育基本法の立法目的及び教育目的条項の成案化
⑵ 教育権・学習権条項の成案化
第三節 台湾における教育権・学習権の法理論と課題
1.教育権思想の生成と日本の「国民の教育権論」
2.学習権の法理論の課題
小結
第四章 教育における民主化の政策化
第一節 行政院・教育改革審議委員會による教育改革の構想と思考
1.教育改革における教育改革審議委員會の位置と組織特性
2.教育改革審議委員會の教育改革理念と政策構想
第二節 教育部による教育改革の具現化と教育官僚統制
1.教育改革の具現化過程にみる教育部の反動
2.教育改革推動小組にみる教育官僚統制
小結
第Ⅲ部 教育における民主化の変容過程(2004年–2013年)
第五章 教育社会の反応と教育改革批判
第一節 教育界の反動にみる「十年教改」批判
1.「重建教育宣言」にみる「十年教改」批判
2.教育社会の「十年教改」批判
第二節 教育改革における自由化の葛藤とアポリア
1.教育改革審議委員會の政策審議における新自由主義化
2.教育改革推動小組・教育部の政策執行における新保守主義化
小結
第六章 学校の民営化にみる教育の民主化と自由化
第一節 中央における教育の民主化と学校の民営化政策
第二節 地方における教育の自治化と学校の民営化政策
1.条例にみる学校の民営化の目的
2.条例にみる学校の民営化の方式
3.条例にみる学校の民営化の被委託者
第三節 学校民営化の方式(類型)の特性と課題
小結
第七章 教育バウチャー(幼児教育券)にみる教育の民主化と自由化
—台湾幼児教育券の検証—
第一節 教育の民主化と教育バウチャー(幼児教育券)
1.教育の民主化における幼児教育券の導入
2.幼児教育券の導入の背景と幼児教育の課題
第二節 幼児教育券の実態と効果の検証
1.幼児教育券の財政効果と教育(保育)費の分配
2.幼児教育券の教育効果と幼児教育の質
3.幼児教育券の社会効果と保護者の学校選択
小結
資料 幼児教育券に関する保護者へのインタビュー
第Ⅳ部 教育における民主化の再編過程(2014年以降)
第八章 台湾における学生運動と第二の民主化—太陽花學運の戦略・戦術と思想—
第一節 太陽花學運の立法院占拠と戦略
1.太陽花學運による立法院占拠
2.太陽花學運に対する台湾世論の反応
3.太陽花學運の戦略とサービス貿易協定
第二節 太陽花學運の民主化思想と戦術
1.太陽花學運にみるSNS運動
2.太陽花學運にみる民主化運動
3.太陽花學運の民主化思想の本質
小結
第九章 教育による民主化とシティズンシップ教育—教育による民主化の可能性—
第一節 台湾における民主化への移行と公民教育の成立
1.戒厳体制下の国民教育の転換
2.民主化への移行と公民教育の成立
第二節 台湾における公民資格(シティズンシップ)教育と公共哲学
1.公民資格教育の目標とカリキュラム
2.公民資格教育の公共哲学
小結
終章
第一節 教育における民主化の生成過程
第二節 教育における民主化の移行過程
第三節 教育における民主化の変容過程
第四節 教育における民主化の再編過程